【症例報告】両肩の痛みと挙上制限の改善経過(F.M様)
本日は、両肩の痛みと腕が上がらない症状でお悩みだったF.M様(63歳・元プレス工)の診療記録をご紹介します。
診療1(初診)
■ S (Subjective - 主観的データ)
- 7ヶ月前から左肩に痛みがあり、7日前からは右肩にも痛みが出始めている。
- 腕を動かす時、手を伸ばす動作(リーチング)、高い所の物を取る動作などで痛みが増強する。
- 仰向けで腕を上げる動作や、ベッド下に腕を落とす姿勢は比較的楽にできる。
- 腕を後ろに回す動作(結帯動作)に制限がある。
■ O (Objective - 客観的データ)
- 姿勢分析にて、亀背(猫背)と反り腰が見られ、右肩甲骨が外側に開き下がっている状態(外転下制)を確認。
- 両肩ともに90度以上腕を上げることができない。
- 左肩の挙上・外転・伸展に制限があり、動かした際の引っかかりや痛み(インピンジメント兆候)が陽性。
- ゼロポジション(肩に負担の少ない特定の角度)での外旋時に痛みが生じる。
- 右広背筋に痛みの引き金となる硬結(トリガーポイント)を確認。
■ A (Assessment - 評価)
- 亀背などの姿勢不良に伴う肩甲骨と腕の連動(肩甲上腕リズム)の破綻と、関節包下部の硬さによる骨頭の滑り運動制限が、痛みの原因(インピンジメント)を引き起こしていると考えられる。
- 他院での検査で腱板断裂は陰性だったため、凍結肩(五十肩)の疑いが強い。
- 日常生活での負担のかかる動き(禁忌動作)が症状を長引かせている可能性が高い。
■ P (Plan - 計画)
- まずは炎症を抑え、肩への過度な負担を止めることを最優先の課題とする。
- 負担のかかる動作の中止と、起床時や痛みが出た際のアイシング(10分間)を指導。
- ゼロポジションでの痛みのない範囲での内外旋セルフエクササイズを処方し、7日後に経過を観察する。
■ G (Goal - 目標)
- 短期目標: 炎症を鎮静化させ、急な動作をした際の痛みを軽減させる。
- 中期目標: 肩の挙上角度を拡大し、インピンジメント(引っかかりによる痛み)をなくす。
診療2(初診から7日後)
■ S (Subjective - 主観的データ)
- 左肩の痛みと、全方向への動かしづらさが継続している。
- 右肩の肩こり、寝返り時の痛み(夜間痛)、朝の鈍痛がある。
- 洗濯機を動かすなどの日常動作で急に力が入った際に痛みが出た。
- ズボンを引き上げる動作や洗髪など、日常生活に支障が出ている状態。
- ペットボトルを使った自己流のトレーニングを行うと痛みが増強する。
■ O (Objective - 客観的データ)
- 猫背姿勢であり、肩甲骨周りの動きの低下が顕著である。
- 肩の全可動域に制限があり、特に腕を開く動作(外転)が制限され、体を横に傾けてかばう代償動作が見られる。
- 他動での外転時にインピンジメント兆候が確認できる。
- 上腕二頭筋腱の付着部付近に圧痛がある。
■ A (Assessment - 評価)
- 肩関節周囲炎(五十肩)に伴う炎症と、組織の癒着が強く出ている状態。
- 肩甲骨の動きが伴わず、腕の骨だけで動かそうとしてしまうため、関節内で衝突(インピンジメント)が起きている。
- 関節包の拘縮や癒着、姿勢不良による肩甲骨の位置異常が影響し、炎症の悪循環に陥っている。
■ P (Plan - 計画)
- 肩甲骨周囲や胸郭に対して徒手療法を行い、正しい体の使い方を学習する運動療法を実施・指導。
- 壁を使ったストレッチ(後方関節包を緩める)と、アイシングの継続を指導。
- 痛みを伴う自己流トレーニングの禁止、歩行時はポケットに手を入れて腕の重みを免荷するなどの生活指導を実施。
- 次回7日後に可動域の変化と夜間痛の有無を確認する方針。
■ G (Goal - 目標)
- 短期目標: 何よりもつらい夜間痛を緩和させ、炎症の悪循環サイクルを遮断する。
- 中期目標: 2ヶ月間継続してアプローチし、日常生活動作に支障のない可動域を確保する。
【備考:肩関節周囲炎の治療について】
肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)は、痛みの軽減や可動域の回復までに長い期間を要することが一般的です。
その主な理由は、強い炎症によって関節包(関節を包む袋)が分厚く硬くなり、周囲の筋肉や組織と複雑に癒着を起こしてしまうためです。一度癒着して硬くなった組織を剥がし、本来の柔軟性を取り戻すには、組織の修復過程において物理的な時間がどうしても必要になります。
そのため、根本的な改善までには年単位での継続的な運動療法が必要となるケースも少なくありません。そして、最終的な回復具合や改善のスピードは、施術だけでなく、ご自宅でどれだけ正しく・根気よく取り組めるかという「セルフケアの密度」に大きく比例します。
すぐに結果が出ずもどかしい時期もありますが、正しいケアを毎日積み重ねることで体は確実に前進します。焦らずじっくりと、ご自身の体と向き合っていくことが完治への一番の近道となります。
